play opossum

まな板の上の鯉の真似が得意です。

不滅のあなたへ

ネタバレ注意。


記事1本目は、大今良時不滅のあなたへ』をぬるっと紹介。
(少年マガジン連載中、既刊7巻)




神的存在によって、球体として大地に生み落とされた不死者の「フシ」が主人公。
外界からの刺激によって変身を可能とする性質を持つ。
言葉も話せない未熟な生命体であった彼が、旅の途中で出会う存在からさまざまな姿を獲得し、時に奪われ、自我を持って苦悩を抱えながら成長していく……


不滅のあなたへ、人々が託す想い。
時代を越えて紡がれる物語。
熱く壮大なファンタジーである。




🌀

にわかもいいところだが*1氏の作品に入れ込んでおり、今作も読み進めていくなかで、幾度「作者の頭の中どうなってんだ?」と感嘆したことか。いやー、すごい。すごいよ、マジで。


まず、毎巻がクライマックスなのだ。

ファンタジーという土台を使って、舞台を次々に切り替えながら、描きたいだけ描きたいものを描き切る。
そんな熱量がこの作品にはある。週刊シリーズものにありがちな薄さが見受けられない。

そして、フシが旅を経て得るものは、肉体の成長だけでも知識だけでもない、人々が彼に託す意志であり、遺志でもある。

散り際の煌めき、キャラクターたちの生き様が毎巻に凝縮され、胸を打つ。
当然、それは痛みを伴う感動だ。
苦しい、でも、ページをめくる手が止まらない。Twitterにも書いたが感情が持っていかれてしまう……。


こう書き連ねると、死をダシにしやがって……と見る向きもあるだろう。
泣きゲー、携帯小説……罪悪感を抱えながらも、我々は時に、感動のための死*2を消費しているのも事実である。
感動ポルノなんて言葉が巷に散見されたのも記憶に新しい。

しかし、本作には生死を扱う作品としてのジレンマが早々に盛り込まれている。*3

「生きてることにどんな意味を見出だしてるんだ?」*4という問い。
そしてそれを打ち消すような「人の生き死にに意味を求めるなんて間違ってる」*5
という台詞をパロナというキャラクターは放っている。

そして、その彼女の問いは時代を跨いでフシに改めて突きつけられるのだ。


重い問題に対しての作者の行き届いたバランス感覚、これがあるからこそ、前作では聴覚障害のヒロインと元加害者であった少年の物語を描ききることが出来たのだと思う。
この細やかさは今作でも読者を置き去りにせず、ファンタジー作品でありながら、テーマが作者の実体験の問題意識と結び付いていることからもうかがえる。

身近な者の死、誰かを傷つけ、裏切ってしまったことへの後悔……
贖罪の気持ち、孤独になりたい、死んでしまいたいと思う自罰意識……
これらは前作とも重なるテーマではないだろうか。


胸を揺さぶる圧倒的な読後感を提供しながら、フシたちはけして遠い存在ではなく、共感の対象でもあるのだ。

彼らは地続きである。






🌀

これといった目標を見出だせず、ただひたすらに物語を摂取することを至上の喜びとする人生を過ごしている。

大宇宙のなかの塵みたいなちっぽけな生命体なんだし、ただ生きたいように生きりゃいいじゃないかめんどくさいなぁと思う時もあれど、悩むことのできる人間だからこそ、己の人生に意味を見出だしたくもなる。


なんのために読むのか、書くのか。
記憶を得るのか。生きているのか。
その問いは自分にとって遠いものではない。

このまま生き方というものがわからないまま死ぬんだろうか。



「いつかきっと死んでしまうすべてのあなたへーーこの永遠の旅を贈る」
冒頭のこの煽り。否が応もなく期待してしまう。


この壮大な旅を見届けた時に何を想うのか。

楽しみなシリーズだ。












余談いち。*6

余談に。*7

*1:ヒット作に一定の距離を置きたがる残念な思考のため、『聲の形』も今年に入って読んで後悔。当然だが売れているものには売れているだけの理由がある。。

*2:劇場版CLANNADの監督とだーまえのやり取りを時折思い出す。

*3:作者インタビュー参照、こちらもネタバレ注意。http://konomanga.jp/interview/136188-2/2 http://konomanga.jp/interview/136198-2

*4:2巻より引用

*5:

*6:単行本派ゆえ、もう明かされているかもしれないのだが、編ごとのラスト、彼らの願望めいたシーンの意図するところが気になる。観察者、破壊者の行動原理も謎だらけ。。。

*7:基本幼いキャラにハマりやすいのだが(ロリコンは病気です)大今作品は姐さんキャラがツボで興味深い。色気? パロナとマーチの関係性も異様に好き。